〈2022年6月19日の記事〉
映画『男と女』『Z』『愛、アムール』などで知られるフランスの俳優、ジャン=ルイ・トランティニャンさんが17日に、仏南部ガール県の自宅で死去したことが伝えられた。
決して誰もが認めるというハンサムというわけではなく、日本での人気は今ひとつだったが、大人の色気を醸し出す渋い演技派として、欧州では引っ張りだこの俳優だった。
前立腺がんを患い闘病生活を送っていたが、最期は家族に囲まれながら静かに息を引き取ったという。享年91歳。
トランティニャンさんは1930年生まれの南仏ヴォクリューズ県プロラン出身。パリで中等教育を終えてから、名演出家シャルル・デュランのもとで演技を学んだ。
20歳のときに『真夏の夜の夢』で初舞台を踏み、以降シェークスピア劇や新作劇など多くの舞台で経験を積む。55年、クリスチャン・ジャック監督に認められて『空と海の間に』で映画デビュー。そのあと舞台、映画、ラジオ、テレビと活躍の場を広げた。
56年に女優のステファーヌ・オードランと結婚するが、同年の『素直な悪女』(ロジェ・バディム監督)で共演したブリジッド・バルドー(BB)と不倫のすえ愛の逃避行。このときBBはバディム監督と結婚しており、ともに配偶者を裏切っての禁断の恋だった。
BBとの数年間の同棲生活を経て、60年に演出家のナディーヌ・トランティニャン(旧姓マルカンド)と再婚。彼女が監督した映画『恋びと』(67年)にも出演している。(一男二女をもうけたあと76年に離婚)
66年にはクロード・ルルーシュ監督の『男と女』に出演。『男と女』はルルーシュ監督の才気あふれる映像感覚と、フランシス・レイによる華麗な音楽が評判となり、カンヌ国際映画祭のグランプリを受賞するほか世界中でヒットを飛ばした。
『男と女』で魅力的な中年男を演じたトランティニャンは、主演のアヌーク・エーメとともに世界に知られる俳優となり、フランスではアラン・ドロン、ジャン=ポール・ベルモンドと並ぶ人気スターとなる。
69年には、社会派作品『Z』(コスタ・カブラス監督)で正義感に燃える判事を演じ、カンヌ国際映画祭の男優賞を受賞。以降も『暗殺の森』(70年、ベルナルド・ベルトルッチ監督)『狼は天使の匂い』(72年、ルネ・クレマン監督)『離愁』(73年)などで渋い演技を見せた。
その活躍は70を過ぎても衰えを知らず、86年にはルルーシュ監督の続編『男と女Ⅱ』に出演。82歳で主演した『愛、アムール』(2012年、ミヒャエル・ハネケ監督)は、カンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞している。
約70年にわたる俳優活動を通じて100本以上の映画に出演し、19年の『男と女 人生最良の日々』(クロード・ルルーシュ監督)が遺作となった。