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サッカーの歴史や人物について

ワールドカップの歴史 第20回ブラジル大会-前編(2014年)

「波乱の予選リーグ」

 

 

36年ぶりの南米開催

03年のゼップ・ブラッターFIFA会長による「2014年のW杯は、各大陸連盟持ち回り開催の原則により、南米での開催を前提とする」の発言を受け、ブラジル、コロンビア、アルゼンチンの3カ国が前向きな姿勢を見せるが、南米サッカー連盟は04年の総会でブラジルを統一候補として採択する。

 

06年にブラジルが正式に立候補を表明。対抗馬と見られたアルゼンチンは結局手を挙げず、遅れて立候補したコロンビアも07年に辞退。50年大会以来、64年ぶりとなるブラジルでのWカップ開催が決まった。(南米開催としては、78年のアルゼンチン大会以来36年ぶり)

 

今大会は前回の南アフリカW杯で、誤審により得点が取り消された試合(ドイツ対イングランド戦)が波紋を呼んだ教訓から、最新技術を使った「ゴールライン・テクノロジー」の機械判定が導入されることになった。

 

W杯予選には、過去最多となる203の国と地域がエントリー。例年のように大きな波乱も起きることなく、開催国のブラジルを始め、アルゼンチン、ウルグアイ、ドイツ、イタリア、イングランド、フランス、スペイン、ポルトガル、オランダといった強豪国・常連国が出そろい、初出場はボスニア・ヘルツェゴビナのみとなった。

そして16年に開催されるリオ・オリンピックと併せて、Wカップが行われるブラジル国内の12会場で新スタジアムの建設や改修、周辺のインフラ整備が行われたが、建設は遅れに遅れ、一部の会場や交通機関が未完成のまま開幕を迎える。

 
カナリア軍団の若きエース

14年6月12日、会場となったサンパウロ・デ・アレーナに6万2千人の観客を集め、第20回ワールドカップ・ブラジル大会が開幕した。開幕戦として行われたのは、A組・ブラジルとクロアチアの試合。日本の西村雄一が主審を務めた。

開催国のプレッシャーから固くなったブラジルは、開始11分にオウンゴールで失点。だがこれで目が覚めたのか、反撃を開始。29分に新エースと期待されたネイマールが同点弾を決める。このあと42分に得たFKはわずかに枠を外すも、後半の71にフレッジが倒されPKを獲得。GKの手を弾く力強いシュートで、ネイマールが逆転弾を叩き込んだ。

終了直前にもオスカルが追加点を決め、クロアチアに3-1と勝利。優勝を義務づけられたブラジルは、エースの活躍で順調なスタートを切った。第2戦はメキシコの守護神、オチョアの神懸りセーブの前に0-0と引き分けるが、最終節カメルーン戦はネイマールの2発で4-1と快勝。G/Lを1位で通過した。

ネイマールは抜群のテクニックで攻撃を牽引。カナリア軍団の若きエースは、地元の重圧の中で早くも実力を証明して見せた。A組2位となったのは安定した力を持つメキシコ。クロアチアモドリッチらスキルの高いタレントを揃えながら、実力を出せずに3位に終わる。カメルーンは試合中に仲間割れを起こすなど自滅、全敗で大会を去って行った。

 

オランダの快進撃と王者スペインの没落

B組の初戦は、奇しくも前大会ファイナルで戦ったオランダとスペインの試合。開始27分、シャビのスルーパスを受けたジエゴ・コスタが倒されPKを獲得。それをシャビ・アロンソが確実に沈めて、世界大会とユーロを3連続で制覇した王者スペインがリードする。

序盤こそボールを支配されたオランダだが、徐々に劣勢を挽回。前半終了直前、アーリークロスに反応したファン ペルシーが、身を投げ出してのヘディングシュート。目の覚めるような同点弾を決めた。後半はオランダの積極的なプレスと速攻が面白いようにハマり、ロッベンデフライ、ファン ペルシーの連続得点で逆転。最後はロッベンの独走ドリブルでトドメを刺す。

終わってみればオランダが5-1と快勝。伝統の3トップを封印し、5-3-2の守備的布陣でプレスをかけ続けたファン ハール監督の采配が的中。前回チャンピオンのスペインが惨敗するという、波乱の序盤戦となった。

好調オランダは第2戦でオーストラリアと対戦。ロッベン、ファン ペルシーの両エースが連続得点を決め、3-2の接戦を制した。オーストラリアもケーヒルがスーパーボレーを決めるなど健闘したが、チリ戦に続く2連敗となった。

立て直しを図るスペインは、次のチリ戦で長らくチームを支えたシャビとピケを先発から外すという荒治療。しかしチリのハードプレスの前にパスミスを連発。前半で2点をリードされると、チリの身体を張った守備にゴールを阻まれ、思わぬ2連敗を喫してしまった。

最終節は予選1位通過をかけたオランダとチリの戦い。累積警告でファン ペルシーを欠くオランダは、守備的布陣でチリの攻撃を凌ぐと、後半はハイプレスに切り替え反転攻勢。77分には、CKのチャンスからオランダが先制する。リードされたチリは、アレクシス・サンチェスを中心に反撃を仕掛けるが、ガッチリ固められたオランダの守備を突き崩せず90分が過ぎていった。

そして後半のロスタイム、前掛かりになるチリの裏のスペースへ、ロッベンが高速カウンター。走り込んだデパイがダメ押し点を決めた。こうして2-0と快勝したオランダが3戦全勝で1位、2勝1敗のチリが2位となった。王者スペインは最終節のオーストラリア戦で3-0と意地を見せるも、まさかの3位で予選敗退となってしまった。

 

南米の新星 ハメス・ロドリゲス

5大会ぶりの出場となったC組のコロンビアは、初戦でギリシャと対戦。開始6分、グアドラードのクロスを、10番のハメス・ロドリゲスがスルー。そこからアルメロの先制点が生まれた。そこからコロンビアは相手のお株を奪う堅守速攻、ギリシャ得意のカウンター攻撃を防いだ。

後半に入った58分、ハメスのCKからコロンビアが追加点。さらに後半アディショナルタイムには、グアドラードのヒールパスからハメスが左足で鮮やかな3点目を決める。故障で不参加となったコロンビアのエース、ファルカオの不在を感じさせない3-0の快勝だった。

コロンビアの第2戦は「エレファンツ」の愛称を持つ、アフリカの雄コートジボワールとの試合。前半はハメスのパスワークが冴えて、コロンビアがゲームを支配する。後半の60分、コートジボワールは切り札のドログバを投入。しかしその5分後にハメスが先制のヘディングシュートを決めて、得点能力の高さを見せつけた。

さらに70分、中盤でボールを奪ったハメスを起点に、キンテーロが追加点。コートジボワールの反撃を1点に抑え、コロンビアが2連勝を飾った。ギリシャ戦に続き、全得点に絡んだハメスは2試合連続のマン・オブ・ザ・マッチ。最終節の試合は途中出場から流れを変え、ゴールも決めて崖っぷちの日本を1-4と粉砕する。

こうしてC組は3戦全勝でコロンビアが1位。最終節でコートジボワールに2-1と勝利したギリシャが、最下位から2位に浮上しての予選突破となった。

 

大波乱となった「死のグループ

死のグループ」と呼ばれたD組は、イタリア、イングランドウルグアイの3強が予選突破を争い、1弱コスタリカは強豪国の草刈場になると思われていた。そのコスタリカは、初戦でウルグアイと対戦。前半はカバーニのゴールでウルグアイにリードされると、試合の趨勢は決ったかに思えた。

しかしコスタリカは守護神ケイラー・ナバスの好守で追加点を許さず、後半54分にはキャンベルの同点弾が生まれる。勢いづいたコスタリカはその3分後、FKから逆転。焦るウルグアイを尻目に、84分にも追加点を決めた。試合は3-1で終了し、伏兵コスタリカが大金星。「死のグループ」は波乱のスタートとなった。

イタリアはイングランドとの初戦を、マルキージオバロテッリのゴールで2-1と辛勝。第2戦でコスタリカと戦った。コスタリカは素早いチェックでレジスタピルロをマーク、決定的な仕事をさせなかった。

反対にカウンターで再三のチャンスをつくると、44分にディアスのクロスからルイスがヘディングシュート。ボールはバーを叩き真下へ落下、ゴール外に転がっていった。一瞬の間を置き、腕時計の振動を受け取った主審は笛を吹いてゴールを認定。Wカップで初めて「ゴールライン・テクノロジー」が威力を発揮した場面だった。

このあと組織的な守備でイタリアの反撃を封じ、格下のコスタリカが1-0と勝利。2連勝の快進撃で早くもG/L突破を決めた。

 

噛みつき男スアレスと強豪の敗退

第1戦を落としたウルグアイイングランドは、第2戦で対戦。ウルグアイは故障明けのルイス・スアレスが先発に復帰、39分にカバーニのクロスから復活弾となる先制ゴールを決めた。そのあと守備を固めるウルグアイに苦戦するイングランドだが、75分にルーニーがW杯初得点となる同点弾。試合を振り出しに戻した。

85分、カバーニとの競り合いでジェラードに当たったボールが後方に流れ、それを拾ったスアレスが落ち着いてシュート、これが決勝点となってウルグアイが勝利した。対するイングランドは、主将のジェラードが2失点に絡むなど不調。2連敗で早々と敗退が決まり、最終節もコスタリカに0-0と引き分けて最下位に沈んだ。

G/L突破をかけたイタリアとウルグアイの試合は、双方守備的布陣で臨んだ我慢の試合、後半途中まで膠着状態が続いた。しかし59分にマルキージオがラフプレーでレッドカード。イタリアは10人での戦いを強いられることになる。

勢いづくウルグアイだが、守護神ブッフォンとDF陣の奮闘に阻まれ、イタリアの牙城は崩せなかった。80分、イタリアのゴール前でスアレスキエッリーニ接触して転倒。スロー映像にはスアレスキエッリーニの肩に噛み付く姿が映し出されており、試合後長期の出場停止処分を受けることになる。

直後の81分、ウルグアイはCKのチャンスからゴディンが頭で合わせて待望の得点。残り時間を守りきって2位で決勝トーナメントに進んだ。

こうしてD組は伏兵のコスタリカが首位突破の快挙。06年Wカップ王者のイタリアは2大会連続のG/L敗退となり、「死のグループ」は大波乱のうちに終了した。

 

復権を目指すフランス

前大会で醜態を晒したフランスは、再建を託されたデシャン監督がリベリーやナスリを外してチームを立て直し。ポグバ、バラン、グリーズマンといった若手を抜擢して大会に臨んだ。E組のG/Lではホンジュラスベンゼマの2ゴールで3-0、難敵スイスを5-2と下し、エクアドルには0-0と引き分け。1位突破でリベンジを果たした。

スイス最終節のホンジュラス戦は、エースのシャキリハットトリックの大活躍。3-0の勝利を収めて、グループ2位でベスト16に進んだ。エクアドルも健闘を見せたものの、3位に終わった。

F組のアルゼンチンは、初出場のボスニア・ヘルツゴビナに手こずりながらも、メッシの活躍で初戦を2-1と勝利。第2戦もアジアの強国イランに苦戦するが、後半のアディショナルタイムにメッシが左足一閃の劇的な決勝ゴール。2連勝とした。

最終節のナイジェリア戦も、メッシの2発で3-2と勝利。守備を免除されたエースに頼るだけのアルゼンチンが、苦しみながらも全勝で1位となった。

2位通過したのは2勝1敗のナイジェリア。初出場のボスニア・ヘルツェゴビナは、イラン相手にW杯初白星を記録。G/Lの3位を確保した。

 

盤石のドイツ ポルトガルのCR7は不調

G組のドイツは、初戦のポルトガル戦でトーマス・ミュラーが大活躍。12分にPKで先制点を挙げると、37分には狡猾なプレーでDFぺぺの頭突きを誘発し、「悪童」と呼ばれた男を退場に追い込む。さらに前半アディショナルタイムに2点目、78分にはハットトリックを決めた。ポルトガルは、エースのクリスティアーノ・ロナウドが負傷明けで不調。0-4と完敗を喫してしまった。

第2節のドイツとガーナの試合は、ボアテング兄弟がそれぞれのチームに分かれて対戦。51分にゲッツエの得点でドイツが先制するが、アイェウとギャンの連続ゴールを許してガーナに逆転される。それでも71分に途中出場したクローゼが、CKに反応して同点弾。ブラジルのロナウドが持つW杯通算最多得点記録(15ゴール)に並んだ。試合は2-2で引き分け、ドイツは勝点1を拾う。

第2戦でポルトガルアメリカと対戦。90分を過ぎてアメリカが2-1とリード、万事休すと思えたポルトガルだが、アディショナルタイムの5分にC・ロナウドが鋭いクロス。それを途中出場のバレラが決め、終了間際でポルトガルが追いついた。

最終節は、アメリカ対ドイツの試合。アメリカのクリンスマン監督とドイツのレーブ監督は、06年ドイツW杯で監督 - コーチのコンビを組んだ仲だった。試合は立ち上がりからドイツが圧倒、しかしフィニッシュに精度を欠き前半を0-0で終える。しかし後半の55分、こぼれ球に反応したミュラーが右足で先制。後半はアメリカの攻勢を抑え、1-0で逃げ切った。

最終節にグループ突破を懸けたポルトガルは、31分にガーナのオウンゴールで先制。しかし後半57、ギャンのヘディングシュートで追いつかれてしまう。そのあと激しい攻防が続くが、80分にGKの弾いたボールを、C・ロナウドがダイレクトシュート。待望の今大会初得点で勝ち越した。

しかし時すでに遅し。ポルトガルはこのまま2-1と勝利を収めるが、ドイツ戦の4失点が響いて得失点差でアメリカに及ばず。3位での終戦となった。こうしてG組はドイツが1位、アメリカが2位でG/Lを通過した。CR7は前大会に続いて、輝きを見せることなく大会を去って行った。

 

好調ベルギーとアルジェリアの勝ち上がり

H組は若いタレントを揃えたベルギーが、厚い選手層を生かしてアルジェリアに2-1、ロシアと韓国に1-0と3連勝。順調にベスト16へ勝ち上がった。ハリルホジッチ監督率いるアルジェリアは、第2戦を果敢な攻めで韓国から4点を奪取。ソン・フンミンのゴールなどで意地を見せた相手を4-2と下す。

最終節はロシアと1-1で引き分け。同時刻に行われた試合で韓国がベルギーに敗れたため、2位を確保したアルジェリアが、4回目の出場で初めての予選リーグ突破を果たした。

こうしてグループリーグの全日程が終了。決勝トーナメントは、ブラジル ー チリ、コロンビア ー ウルグアイ、フランス ー ナイジェリア、ドイツ ー アルジェリア、オランダ ー メキシコ、コスタリカギリシャ、アルゼンチン ー スイス、アメリカ ー ベルギーの組み合わせとなった。

 

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