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アウトレイジと監督 北野武 最終章 

〈2018年8月20日の記事〉
 
オフィス北野の解体

「軍団を含め、これまで背負ってきたものをいったん下ろしたい。自分の時間を増やしたい」

そんな理由で、北野武ことビートたけしは長年活動拠点としてきたオフィス北野を離れ、新事務所T.Nゴンへ移籍した。さすがのたけしも齢70を過ぎ、色々なことがしんどくなってきたのは理解出来るところだ。

もっとも本当の理由はそれだけではないようだ。これまで全ての財産管理を任せていた幹子夫人から離れ、身軽になって噂の女性パートナーと晩年の芸能生活を全うしたいという心境になったのかもしれない。それと事務所社長で北野映画のプロデューサー森昌行との信頼関係が崩れてしまったのも独立にいたった一因だと考えられる。

 
北野映画の行方

たけしの新事務所移籍が決まると、後に和解をしたものの森昌行社長とたけし軍団の確執が表面化した。オフィス北野の社長には留まったが、たけしの「一番裏切る奴は、一番よく働く奴」という発言もあり、悪者扱いされた森昌行の力は弱くなってしまう。

こうなると気になるのは北野映画の行方である。たけしが作家性は高いものの収益性の低い一連の作品をつくり続けられたのは、森プロデューサーの尽力によるところが大きい。だが現状ではこの二人が今後映画でタッグを組めるのか不透明な状況だ。

たけしをコントロール出来る関係で、収益が望めない北野作品の資金集めをしようとするプロデューサーは他にいないだろう。となると、たけしの映画監督としての活動は停滞し、去年公開された『アウトレイジ 最終章』が最後の作品となる可能性も考えられる。

 

映画監督 北野武の変遷

バイク事故後、『キッズ・リターン』で映画監督としての復帰を果たした後、次の監督作品HANA-BI』がベネチア映画祭でグランプリを受賞し、北野武の名声は動かないものとなる。それ以降、資金以外は映画作りにおいて北野武を縛るものが無くなり、いよいよその作家性を強めていくことになる。

それからの北野映画は大ヒットした『座頭市』を除けば、たけしの精神的世界に深く落とし込んだものになり、よほどのファン以外は理解し難い個人的作品が続くようになる。

アート三部作と呼ばれる作品群での自分語りが一段落したあと、プロデューサーの森昌行が提案したのがエンターテインメントとしてのやくざ映画だった。これまでのやくざが登場する北野映画といえば、役者に極力芝居をさせず暴力や死を映像で語らせるのを旨としていた。

それを今回は北野作品が避けてきた芝居達者を大勢キャスティングし、娯楽性の高い群像劇を作ろうとするものだ。それが北野バイオレンスの集大成『アウトレイジ』である。

 

アウトレイジ』の暴力描写

この『アウトレイジ』と続編の『アウトレイジ ビヨンド』はやたらに登場人物が多く、展開もスピーディーで関係性が一回見ただけでは分かりにくい。だから、なぜ彼らが騙し合い殺し合っているのか、観客の理解が追いつかないうちにストーリーが進んでゆく。

だがこの作品はストーリーをなど気にする必要はなく、その斬新でスタイリッシュな暴力描写をひたすら堪能する映画なのだ。

北野武はキャスティングも巧みで、役者のイメージにとらわれずあえてミスマッチとも思える配役を成功させている。役者たちにコノヤローとかバカヤローとか罵り合わせるだけで、尋常ではない緊迫感に満ちたシーンを創り出しているのは流石だ。この2作品は北野映画として久しぶりに商業的成功を収めたシリーズとなった

 

北野映画の最終章

それが最新作『アウトレイジ 最終章』となるとかなりパワーダウンしている。前2作に比べて目新しさが無く、内容も結構あっさりした印象だ。おそらくこの作品は北野武がシリーズにけりをつける為だけにつくった映画だろう。

この映画の最後でたけし演じる大友は拳銃自殺を図る。これまでの北野映画で何度も見た結末だ。これで北野武アウトレイジシリーズにけりをつけて終わらせたが、もしかしたら北野映画そのものの最終章だったのかもしれない。

もう北野武につくりたい映画が無いとすれば、プロデューサーも必要ではないのだろう。これから我々はたけしの名残を見ることになるのだろうか。