サイレントノイズ・スタジアム

サッカーの歴史や人物について

サッカー日本代表史 23. 14’ブラジルWカップ



「自分たちのサッカー」

13年12月7日、ブラジルWカップの予選組み合わせ抽選会が行なわれ、日本はグループCでコートジボワールギリシャ、コロンビアと対戦することが決まった。このグループは実力が拮抗したチームが揃い、日本も「自分たちのサッカー」で戦えば充分勝算があると期待が高まった。

 

翌14年5月12日、高輪プリンスホテルに400名以上のメディアを集め、W杯本番を戦う23人のメンバーが発表された。サプライズ招集となったのが大久保嘉人。大久保はそれまでザックジャパンに一度しか招集されたことがなかったが、Jリーグで得点を重ねるFWを無視する訳にはいかなかった。

 

他にも斉藤学青山敏弘といった新鮮な顔ぶれがメンバー入りしたが、代わりに有力候補だった中村憲剛細貝萌が落選となる。

 

このチームには欧州の名門クラブに所属する選手が揃い、エースの岡崎慎司ブンデスリーガで15得点を挙げるなど、一見豪華な陣容となった。だが香川真司は所属クラブのマンチェスター・ユナイテッドで出場機会を失い、本田圭佑も非公表ながら喉元に最近の手術痕があり、主力たちのコンディションには不安もあった。

 

27日、国内最後の試合となるキプロス戦が行なわれ、新戦力の大久保や故障明けの長谷部誠吉田麻也内田篤人などが試された。長谷部は膝の半月板損傷という重傷からのリハビリを終えたばかりで、プレー内容は低調なものだった。しかし長谷部のキャプテンシーを評価するザッケローニ監督の信頼は厚く、彼がメンバーから外れることはなかった。

 
不安が残る本番への準備

5月29日、代表チームは日本を出発。事前キャンプ地のアメリカ・フロリダ州タンパに向かった。そして6月2日には、ギリシャ対策としてマッチングされたコスタリカ戦が行なわれる。GKケイラー・ナバスを中心に堅い守備を誇るコスタリカだが、日本は持ち前のポゼッションサッカーで流れを掴む。

だが日本ペースで試合が進んだ前半、一瞬の隙を突かれてコスタリカに先制点を許してしまう。良い流れの中で簡単に失点を喫してしまうのは、以前から指摘されていたザックジャパンの弱点だった。しかし後半に出場した遠藤保仁が同点弾を決めると、香川と柿谷曜一朗も終盤に追加点。日本は3-1と逆転勝ちを収めた。

4日後にも、本番前最後の実戦となるザンビア戦が行なわれた、締まらない内容でまたも先制されるが、後半どうにか逆転して4-3と辛勝。2戦合計で7得点4失点。連続の逆転勝ちに手応えを感じた攻撃陣と、不用意な失点の多さに危機感を覚えた守備陣との間に、意識のズレが生まれた。

ちなみに日本に逆転負けを喫したコスタリカは、Wカップ本番で堅守速攻を徹底。強豪ウルグアイとイタリアを撃破して、ベスト8進出という快挙を成し遂げる。

7日、日本代表はアメリカを離れ、ブラジルでの拠点となるキャンプ地イトゥに入った。この日から本番までの間、選手やスタッフ・監督たちはミーティングを重ね、休養日も設けてコンディション調整を行なう。チーム内の雰囲気も良く、Wカップへの準備は整っていた。

初戦、コートジボワール戦のつまずき

12日、ブラジルWカップが開幕。その2日後の14日、日本の初戦コートジボワール戦がレシフェで行なわれた。ボランチを務めるのは、キャプテン長谷部と守備のスペシャリスト山口蛍。日本が目指すポゼッションサッカーの要となる遠藤は、ベンチスタートとなった。また吉田麻也とCBコンビを組んできた今野泰幸も先発を外れ、そのポジションには森重真人が入った。

ザッケローニがいつもより守備的な選手を起用したのは、まだ体調が万全ではない長谷部をフォローするためだった。監督はそれだけ長谷部を重要視していた訳だが、一方で守備に寄ってしまった選手起用は、指揮官がナーバスになっていたことを示していた。

コートジボワールはエースのドログバをベンチに置き、試合開始直後から変則的なポジション取りで両サイドに圧力をかけてきた。これは日本のストロングポイントを消し、流れを自分たちに引き寄せようとする彼らの作戦で、対応に追われた香川と岡崎はジリジリと下げられていく。

コートジボワールの思惑通りで進んだ16分、本田のCKが一旦サイドへクリアされるも、フリースローの流れから長友佑都がドリブルで切り込み本田へパス。本田はワンタッチでボールをスペースに置くと、素早いシュートでの先制ゴールが決まった。

さらに攻勢を仕掛けるかと思えた日本だが、圧力を強める相手に慎重になったのか、DFラインが下がり始めた。しかし危ない場面では選手たちが身体を張って防ぎ、1-0のリードでハーフタイムを迎える。

ザッケローニは間延びした攻守の間隔を指摘、もっと陣形をコンパクトに保つよう指示を出す。だが後半も消極的なDFラインは上がらず、状況を打開するため、54分に長谷部を下げて遠藤を投入する。

遠藤が入ってきた時点で、既に選手たちには疲れの色が浮かんでいた。コートジボワールが採った変則ポジションに、振り回されていたのだ。そして62分、満を持しドログバが登場すると、圧巻の迫力でマークに来た遠藤と本田を吹き飛ばす。体力のピークは過ぎてもその存在感は健在で、日本の注意はドログバに集中した。

64分、ヤヤ・トゥーレがぽっかり空いた右スペースに縦パスを出すと、オーリエがフリーでキープ。そこからアーリークロスを上げた。するとゴール前に飛び込んだボニーがDFと競いながらヘディングシュート、同点弾を決められる。

さらに66分、またもヤヤ・トゥーレからオーリエにボールが繋がりクロス。フリーで飛び出したジェルビーニョが頭で合わせ、日本は続けて失点してしまう。ドログバ投入から僅か4分で起きた、あっという間の逆転劇だった。これで意気消沈した日本に、もう反撃する力は残されていなかった。

ザッケローニはこのあと、香川と大迫に代えて大久保と柿谷を投。残り5分には吉田を前線に上げ、パワープレイに出る。これまでほとんど試すことのなかった空中戦の選択は、ザック采配のブレを示すものだった。

疲弊した選手たちは体力も気力も尽き果て、試合は1-2で終了。日本は大事な初戦を落としてしまった。この敗戦のショックは大きく、チームの雰囲気は沈んだようになってしまう。

無策のギリシャ

続くギリシャ戦は、19日にナタールで行なわれた。この試合、香川が先発から外れ大久保を起用。CBも森重から今野に代っていた。ギリシァは相手にボールを持たせて、カウンターを狙ういつものスタイルで戦ってきた。

日本は何度か好機を作るものの、相手の堅い守備に阻まれ得点に至らない。29分にはFKのチャンスを得るが、本田のキックは簡単に止められてしまった。35分、ギリシャFWミトログルが腰を痛め選手交代する。その3分後にはMFカツラニスが長谷部を倒し、2枚目の警告で退場。日本が数的優位に立つ。

10人になったギリシャは目的が明確化、徹底した守りで引き分け狙いにきた。日本は後半開始から長谷部に代えて遠藤を投入。57分には大迫と香川を交代させ、自陣に籠もったギリシャを崩しにかかる。日本のボール支配率は7割に達するものの、焦りからか攻めは単調で、サイドからのクロスを繰り返し放り込むだけだった。

それでも何度か決定機が訪れるが、いずれもシュートは枠に飛ばず、待望の得点は決まらなかった。85分、絶好の位置で得たFKを遠藤がゴール右隅を狙って蹴り込む。だがそれもギリシャGKに阻まれ、最後のチャンスを逃してしまう。残り3分、吉田を前線に上げパワープレイに出るが、長身揃いのギリシャ選手の中で埋没するだけだった。

試合は0-0のスコアレスドローで終了。それぞれ勝ち点1を得た日本とギリシャは、辛うじて予選突破の可能性を残す。第2節を終わり、コロンビアが勝ち点6で早くも予選突破。残り1枠を3チームが争うことになった。

第3節で戦うコロンビアは、大幅にメンバーを落としてくることが考えられた。最終節ギリシャコートジボワールに勝つことが条件だが、日本は予選突破を目指し3戦目に備える。

ハメス・ロドリゲスの引き立て役

24日、グループ突破を懸けた戦いがクイアバで行なわれる。コロンビアは予想通りハメス・ロドリゲスら主力8人を温存してきた。日本は香川が先発に復帰。ワントップを大迫から大久保に入れ替え、ボランチは山口が外れて青山が入った。

勝利が突破の絶対条件となる日本は序盤から攻勢。積極的にシュートを打つなど、良い流れで試合を進める。だがその17分、カウンターからゴール横のスペースにパスを出され、今野がファール。コロンビアにPKを与えてしまった。これをクァドラドに決められ0-1。日本守備の不安定さが露呈した失点だった。

そのあと一進一退の攻防が続いた前半ロスタイム。本田が右サイドから出したクロスを、岡崎が相手DFを抑えながらヘディング。同点ゴールが決まった。ハーフタイムに入ると、もうひとつの会場でギリシャが先攻したという知らせがもたらされる。勝てば予選突破の可能性が出てきたことで、日本の士気は一気に上がった。

後半立ち上がりにコロンビアは、最も危険な男ハメス・ロドリゲスをピッチに送り出す。するとコロンビアの動きは一変。ハメスの切り裂くようなパスとドリブル、そして閃きのプレーはゲームを支配。日本を圧倒し始めた。

50分、ハメスのミドルシュートをなんとか防ぐも、55分にDF4人を引きつけたハメスがスルーパス、これを受けたマルティネスに勝ち越し弾を決められる。コロンビアはリードを奪うと、守りながら様子を伺う態勢にシフト。日本は試合を落ち着かせると、勝利を目指しての反撃を試みる。前掛かりで仕掛ける日本は何度か好機を作るも、シュート精度が低くゴールが決まることはなかった。

攻めきれないまま迎えた82分、本田のボールロストからカウンターを受け、ハメスのスルーパスから再びマルティネスがシュート。コロンビアの3点目が決まった。勝利を確信したコロンビアは直後の85分、最後の交代枠でベテランGKモンドラゴンを送り込む。43歳のモンドラゴンはこれで、ロジェ・ミラの持つW杯歳年長出場記録を更新した。

試合終了直前の90分、ハメスが日本ゴール左側に抜け出す。すると鋭い切り返しで吉田を翻弄。尻餅をつかせてから川島も軽くかわし、浮き球でシュート、ダメ押し点を入れた。こうして試合は1-4で終了、日本の完敗だった。一方の会場はギリシャが2-1でコートジボワールに勝利。初戦0-3の敗戦から、大逆転で残り1枠をさらっていった。

日本代表の過信

大会終了後、コンディション調整の失敗やザッケローニ監督の采配のブレが敗因と分析された。そして一部選手による「自分たちのサッカー」「優勝を狙う」などの浮ついたフレーズが、チームの足元を見失わせたと批判する意見も多かった。事実、3試合全部に先発した内田篤人さえ、その疑問を口にしていた。

日本はなんとしても、初戦のコートジボワール戦で勝ち点を得なければならなかった。だがコートジボワールが徹底した日本対策を施してきたのに対し、日本は「自分たちのサッカー」で勝負できると過信。結果は逆転負けで勢いを削がれ、監督と選手に迷いが生じる。

不用意に失点する日本守備の問題は、攻撃陣が「自分たちのサッカー」に囚われ、根本的解決が図られなかったことにあった。日本代表はもっと謙虚に、己の実力を見極めるべきだった。