「将軍の退場」
決勝トーナメント1回戦で注目カードの1つが、ポルトガルとオランダの試合だった。オランダは不調のエース、ファン ニステルローイを先発から外し、カイトをCFに起用した。序盤はオランダの流れ、ファン ボメル、ロッベン、ファン ペルシーが立て続けにシュートを放つが、枠を捉えられず得点には至らなかった。
オランダの攻勢が続いた23分、デコが右サイドよりクロス。パウレタの繋ぎをマニシュが決め、ポルトガルが先制した。しかし34分、C・ロナウドがブーラルズのファールで右大腿部を負傷。シモンとの交代を余儀なくされる。更に46分、コスチーニャがこの日2枚目の警告で退場処分。ポルトガルは10人となってしまった。
このチャンスに追いつきたいオランダは、DFマタイセンに代えてファン デル・ファールトを投入、攻勢を強める。だが63分、今度はブーラルズが2枚目のイエローで退場、オランダも10人で戦うことになった。
それでも攻撃の手を緩めないオランダ。カイト、スナイデル、ファン デル・ファールトとシュートが続く。78分、デコが短時間で警告2枚を受け退場、またもやポルトガルが数的不利に陥った。フェリペ監督はこのピンチにフィーゴを下げチアゴを投入。シモンを1トップにして、守りながらもカウンターを狙う効果的な布陣で対応した。
終盤オランダはパワープレーに出るが、攻撃は機能せずチャンスの芽は摘み取られた。ロスタイムにはファン ブロンクフォルストが2枚目のイエローで退場、このまま試合は終わりを迎え、ポルトガルが1-0と勝利した。
この試合で出されたカードは、イエロー15枚のレッド4枚。せっかくの好勝負を、技量の未熟な主審が台無しにしてしまった。それでもファン バステンが率いた若きオランダの活躍は、観客に鮮やかな印象を残していった。
ポルトガル40年ぶりのベスト4
準々決勝は、ポルトガルとイングランドの対戦。イングランドはエクアドルとの1回戦、ベッカムのFKで1-0と勝利。ベスト8に勝ち上がって来ていた。オーウェンを失ったイングランドは、ルーニーをワントップに置く布陣。デコを出場停止で欠いたポルトガルも、イングランドの強力な中盤を抑える守備シフトを敷いた。
互いにチャンスを作るも、フィニッシュの精度を欠き、前半は0-0で折り返す。だが後半52分、ベッカムが左脚を負傷して交代すると、流れはポルトガルに傾き始める。62分、激しいつばぜり合いにルーニーが冷静さを失い、カルバーリョの股間を踏みつけて一発退場となってしまった。
10人となったイングランド。それでもファーディナンドとテリーを中心に守りを固め、フィーゴとC・ロナウドが繰り出す攻撃を防ぐ。試合はスコアレスで延長に突入。劣勢のイングランドも反撃を試みるが、両チーム好機を逃して120分を終了する。
そして準決勝を決めるPK戦。ポルトガルはランパード、ジェラード、キャリックの3人がGKリカルドの好守連発で止め、最後はC・ロナウドがゴールを突き刺し決着をつけた。こうしてポルトガルが、40年ぶりのベスト4入りを果たす。
フランスの復調
トーナメント1回戦で屈指の好カードとなったのは、フランスとスペインの試合。フランスは出場停止明けのジダンがピッチに立つも、G/Lで3戦全勝の勢いを見せたスペインに分があると思われた。スペインはボランチのX・アロンソを起点に、テンポの良いパス回しで中盤を支配。26分にはCKからPKを得て、ビジャが先制点を決めた。
追いつきたいフランス。ジダンはこれまで相性が悪かったアンリにもひたすらパスを送り、好機を作り出す。そして41分、リベリーがヴィエラとのワンツーで抜け出し、同点となるシュートを流し込んだ。ヴィエラ、マケレレのボール奪取と配球に悩むスペインは、54分にラウルとビジャに代えルイス・ガルシアとホアキンを投入。必死の反撃を図る。
このあと、両者互角の内容でゲームは一進一退の状況。試合は終盤戦を迎えた。83分、ジダンのFKがシャビ・アロンソの頭に当たり、ゴール前にいたヴィエラのもとに。そこからフランスの勝ち越し弾が生まれた。さらにロスタイムの95分、ビルトールのパスを受けたジダンがドリブル突破。プジョルのブロックを巧みにかわすと、決定的な3点目を叩き込む。
フランスはここに来てチームが纏り、ようやくその実力を発揮。ベスト8へ進出した。1回戦で敗れたスペインも、その若さと躍動感は、次の大会に向けて可能性を感じさせるものだった。
ブラジルの敗退
フランスの準々決勝は、前回王者ブラジルとの対戦。前々大会で戦った相手でもあった。ブラジルは1回戦で難敵ガーナを3-0と撃破、先制点を挙げたロナウドはW杯通算得点を15に伸ばし、ゲルト・ミュラーの大会記録を更新していた。
フランスは強固な守備でブラジルの攻撃を抑え、ジダンも巧みなボール捌きで相手を惑わす。そしてリベリー、マルダーの両サイドにボールを送り、ブラジルDFを混乱させた。対するブラジルは、肥満体型のロナウドがゴール前にへばりつき、前線の流動性も今ひとつだった。
54分、ジダンが放ったピンポイントのFKをアンリがボレーで合わせ、フランスが先制。反撃を試みるブラジルは、アドリアーノとロビーニョを投入するが、攻撃は最後まで機能せず。得点を奪えないまま試合は終了を迎えた。
ブラジルの放ったシュートは8本で、そのうち枠内に飛んだのはロナウドの1本のみ。1-0というスコア以上に、フランスが圧倒したゲームだった。強力なタレントを擁しながら纏りを欠いたブラジルは、良いところなく大会を去って行った。
フランス 2大会ぶりの決勝へ
準決勝はフランスとポルトガルの対戦。試合は堅守で勝ち上がってきた両者の攻防が繰り広げられた。ポルトガルはC・ロナウドが再三のドリブルを仕掛けるが、フランスはCBテュラムとギャラスの早い寄せで潰した。
膠着状態が続いた32分、マルダーからパスを受けたアンリがPエリアで鋭い切り返し。するとリカルバーニョが思わず足を出してファール、フランスがPKを得る。キッカーはジダン。反応の鋭いGKリカルドを相手に、助走を取らない素早いシュート。易々とゴールを決めた。
ダイビングにも見えたアンリのプレー。PKを取られたポルトガルは主審に不信感を抱き、たびたび抗議を繰り返すようになる。ナーバスになったポルトガルはリズムを崩し、苛立つ相手をいなしたフランスは、残り時間を優位に進めた。
78分、C・ロナウドFKのこぼれ球をフィーゴが頭で捉えるが、ボールは枠を外れていった。ポルトガルは最後のチャンスを逃し、このまま試合は終了。経験に勝るフランスが安定の試合運びで1-0と勝利した。こうして ”レ・ブルーの将軍” ジダンの花道を飾るべく、決勝の戦いに臨むことになった。
地元ドイツ ベスト4へ
開催国ドイツ、1回戦の相手はスウェーデン。ドイツはバラック、クローゼらの攻撃陣が躍動、ポドルスキーの2得点でスウェーデンを打ち破った。
アルゼンチンは開始早々メキシコに先制を許すも、すぐにリケルメのFKからクレスポが同点弾。その後両者とも決め手を欠くが、アルゼンチンはテベス、アイマール、メッシを次々投入、延長に入って主導権を握った。
98分、左サイドでボールを持ったソリンが、右へ開いたM・ロドリゲスにロングパス。ロドリゲスは胸トラップから左脚を一閃、GKサンチェスの守るゴールをぶち抜いた。こうして2-1と勝利したアルゼンチンは、準々決勝でドイツと戦うことになった。
強豪国同士の対戦、前半は互いの出方を窺う慎重な展開となった。そして0-0で迎えた後半の49分、リケルメ左からのCKをアジャラがダイビングヘッド。アルゼンチンに先制点が生まれた。1点を追うドイツは猛反撃を開始。アルゼンチンは中盤の底、マスケラーノの粘り強い守りでピンチを防いだ。
ところが71分、GKアボンダシェリが接触プレーで腰を痛め退場。ペケルマン監督はその後、動きの鈍くなったリケルメとクレスポも交代させた。しかし、リケルメとクレスポがいなくなった事でアルゼンチンは守りに入り、そこをドイツにつけ込まれる事となる。
80分、バラックが左サイドからクロス。それをボロフスキが頭で繋ぐと、クローゼがDFに競り勝ちヘディングシュート。ついにドイツが追いつく。すでに攻撃の柱を下げ、交代枠も残っていないアルゼンチン。切り札のメッシを使うことも出来ず、反撃の手立ては失われていた。
延長に入っても決着はつかず、120分の試合が終了、勝負はPK戦に持ち込まれた。PK戦では同い年のライバル、カーンの激励を受けたレーマンが気迫のセーブ。2本のシュートを止めて、地元ドイツをベスト4へ導いた。
イタリアの堅実な戦い
イタリア1回戦の相手は、伏兵オーストラリア。ヒディンク監督はイタリアの3トップ、デル・ピエロ、ルカ・トニ、ジェラルディーノを徹底マークさせ、相手の攻撃を封じた。50分にはマテラッツィが一発退場、イタリアは10人での戦いを強いられる。それでもアズーリはカンナバーロを中心とした伝統の堅守を見せ、フィジカルで押してくるオーストラリアの攻めを防いだ。
延長目前の後半ロスタイム、Pエリア内に侵入したグロッソが倒され、イタリアが土壇場でPKを獲得した。これを途中出場のトッティが豪快にシュート、勝負を決めた。
準々決勝で対戦したのは、1回戦スイスを0-0の延長PK戦で下し勝ち上がってきたウクライナ。ウクライナはシェフチェンコのワンマンチーム。イタリアは相手エースを難なく抑えると、攻撃陣も好調。ザンブロッタの先制点とトニの2得点で3-0の快勝を収めた。
デル・ピエロの殊勲弾
準決勝はイタリア対ドイツ。地元サポータの大声援を受けるドイツは序盤から積極的な攻撃を仕掛けるが、イタリア鉄壁の守備を破ることが出来なかった。だがドイツの若いCBコンビ、メルテザッカーとメッツェルダーも水際で失点を防ぎ、両者とも得点が奪えないまま時間は経過していった。
延長に入り、イタリアはイアキンタを投入。大柄なイアキンタは対面する小柄なラームを圧倒し、ドイツの守備を混乱させた。92分にはザンブロッタが強烈なシュート、しかしボールはバーに弾かれ得点はならなかった。
104分、マルチェロ・リッピ監督はデル・ピエロを投入。攻撃の枚数を増やして勝負に出る。これまでWカップで4回すべてのPK戦を制したドイツに対し、イタリアは過去3回のPK戦で未だ勝利なしだった。リッピはなんとしても、延長戦で勝負を終わらせようとした。
延長も終わりが近づいた119分、デル・ピエロが放った右CKは跳ね返されるが、こぼれ球を拾ったピルロがDFを引きつけスルーパス。グロッソがダイレクトシュートを叩き込んだ。さらに121分、反撃にかかるドイツ前掛かりになったところへ、カンナバーロのインターセプトから一気にカウンター。ジェラルディーノのパスを受けたデル・ピエロが、レーマンをかわして鮮やかな追加点を決めた。
歓喜に沸くイタリア、直後に笛が吹かれて試合は2-0で終了した。延長120分に渡った熱い戦いは、攻守に質の高さを見せたイタリアが地元ドイツを破り、3大会ぶりの決勝へ進むことになった。
このあとポルトガルとの3位決定戦が行なわれ、ドイツはカーンが今大会初出場。ポルトガルの攻撃をヌーノ・ゴメスの1点に抑え、シュバインシュタイガーの2得点などで3-1と勝利した。この試合でクローゼにゴールはなかったが、通算5ゴールで大会得点王を獲得する。
ジダンの頭突き
第18回ワールドカップ・ドイツ大会決勝のイタリア対フランス戦は、7月9日にベルリンのオリンピア・シュタディオンに6万9千人の観客を集めて行なわれた。
試合は開始6分、GKバルテズのロングフィードを左に開いたアンリが頭で落とすと、Pエリアに侵入したマルダーがマテラッツィに倒され、フランスにPKのチャンス。ボールをセットしたジダンは、「バネンカ」と呼ばれるチップショットを放つ。
ボールはバーに当たるが、真下に落ちてゴールイン。名手ブッフォンの意表を突く、巧みなジダンのPKでフランスは先制した。リードされ、スイッチを入れ直すイタリア。中盤底の司令塔・ピルロの正確なロングキックで両サイドが攻め上がり、反撃を開始する。
その19分、イタリアに右CKのチャンス。ピルロがファーサイドにピンポイントのボールを送ると、マテラッツィが頭で合わせ同点とした。その後は互いに好機をモノに出来ず、試合は膠着化する。フランスはイタリアの固いDFを破れず、イタリアもピルロが密着マークを受け、生命線である配球を封じられてしまったのだ。
決勝戦は延長に突入。その104分、ジダンが右サイドのサニョルにボールを送ると、リターンのクロス。Pエリアでフリーになったジダンがヘディングシュートを放つが、ブッフォンも鋭い反応で弾いた。
その6分後、思いがけない出来事が起こる。挑発の言葉に反応したジダンがマテラッツィの胸に頭突き。一発レッドの退場となる。キャプテンマークを外し、ピッチを去るジダン。"レ・ブルーの将軍” 最後の試合は、後味の悪いものになってしまった。
イタリア 4度目の栄冠
10人となったフランスだが、ゴールを死守し試合は1-1で終了。優勝はPK戦で決まることになった。先攻のイタリアは1人目のピルロが落ち着いて決めると、2人目以降も順調にPKを成功させた。対するフランスは、2人目のトレゼゲがクロスバーに当て失敗してしまう。
結局5人全員がゴールを決めたイタリアが勝利、6大会ぶり4回目の優勝を果たした。PK戦での勝利も初めてで、94年大会決勝の屈辱を晴らした。
大会MVPに選ばれたのはジダン。ジダンは引退後、退場のいきさつについて多くを語ることはなかった。